Endgame

■Endgameとは

「What's Your Endgame?」は、SSIR(Stanford Social Innovation Review)2015年冬号で発表された論文(英語のみ)です。Endgameのエッセンスを端的に言えば、「非営利組織はともすれば単独での事業規模拡大を目標にしがちだが、事業によって目標設定を戦略的に選び分けることで、社会的インパクトの最大化に近づくのではないか」というものです。

 

Endgameには、典型的には以下の6つのパターンがあるとされています。しかしながら実務上は、どれかひとつのパターンにそのままあてはまるのではなく、複数の組み合わせとなる事例も多いと考えられます。

 

①Open Source(資源のオープン化) 

社会課題解決に役立つナレッジ等の資源を社会に公開することで、その主要な役割を終えるパターンです。論文では伝統的な事例としてアルコール依存症を挙げており、その治療法のメインフレームワークとなる研究結果を公表した時点で、非営利組織(研究機関)はその主要な役割を達成したとあります。

②Replication(複製化) 

社会課題解決のロールモデルをつくり、言わば「のれん分け」をしていくパターンです。例えばTeach for Americaが、Teach for ALLへの加盟プロセスを通じ、Teach For Japanのような世界の拠点をつくった事例は、これにあてはまるでしょう。

③Government Adoption(行政事業化) 

非営利組織がアドボカシー活動を通じて自らの事業を行政にも採用してもらい、社会全体での規模拡大を狙うパターンです。例えば、これまで主に民間で行われていた社会的養護出身の学生むけ給付型奨学金が、平成30年度から日本学生支援機構により制度化された事例などは、これにあてはまるでしょう。

④Commercial Adoption(商業化) 

営利企業の事業活動の「スキマ」に落ちてしまう分野に対し、非営利組織がソーシャルビジネスとして取り組み成功し、次第に営利企業も参入してビジネスとして成立するパターンです。論文でも例として挙げられているマイクロファイナンスの商業化などはまさにこれにあてはまり、現在では多くの商業銀行も参入し、ビジネスとして成立しています。

⑤Mission Achievement(ミッション達成)

ミッション達成により事業を終えるという、理想的なパターンです。論文では、ポリオワクチンによってポリオウイルス感染が大きく減少した事例が挙げられていますが、あわせて非営利組織が次の社会課題解決にシフトしていくことの重要性が説かれています。

⑥Sustained Service(事業継続) 

通常イメージしやすい発展の形、すなわち単独の非営利組織による事業規模の拡大のパターンです。その一方で論文においては、社会課題の規模に比して単独の非営利組織で対峙できるものはそう多くなく、アプローチに限界のあることも説かれています。

 

 

 

■Endgameのファイナンス的検討

Endgameをファイナンス的に捉えれば、パターン①~⑥の事業規模の推移イメージは、以下の図のように表されます。ただし、戦略の選択が適切であれば、いずれのパターンにおいてもソーシャルセクター全体における社会的インパクトは拡大していることにご留意ください。また、個々の非営利組織からの観点で考えれば、社会的インパクトの投資効率が最も高いのは、Open SourceかReplicationであるとも論文では述べています。

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なお、事業レベルではかようにEndgameをむかえますが、組織全体としては複数の事業を持つことが通常であるため、非営利組織は次の社会課題解決のために存続します。このような考え方は、経営学の古典であるプロダクト・ライフサイクル仮説にも類似していると言えます。 

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非営利組織に限らずソーシャルビジネスにとって、事業規模を拡大することは非常に重要です。しかしながらEndgameは、単独の非営利組織だけで社会課題解決を追い求めるのには限界があることを述べています。その一方で、組織には得てして既存事業の継続的規模拡大という「慣性」が働くため、Endgameのような考え方をマネジメントで内外に共有することには、大きな意義があると言えます。

 

非営利組織の取り組むべき具体的な社会課題解決方法および事業は、時代とともに変わっていきます。 この変化に対してマネジメントが意図的に対応できるかによって、時代が変わっても必要とされるソーシャルビジネスになりえるかが試されているのだと考えます。 

 

 

■事例分析(かものはしプロジェクト)

日本の非営利組織におけるEndgameの事例として想起されるのは、かものはしプロジェクトのカンボジアの支援終了とコミュニティファクトリーの独立です。リンク先のインタビュー記事にもあるとおり、かものはしプロジェクトは2017年度末をもって、団体創設当初から続けてきたカンボジアでの活動終了を決定しています。これをEndgameにあてはめれば、カンボジアの児童買春問題は大きく改善しており、Mission Achievementとも言えるでしょう。また、警察含めた行政の関与については、Government Adoptionの要素もあるでしょう。

 

かものはしプロジェクトの財務情報が示すとおり、5年間の推移をみれば、カンボジア支援事業は規模が縮小し、インド事業およびコミュニティファクトリー事業は規模が拡大しています。また、今後の決算では、コミュニティファクトリー事業も独立分離されるため、動向が引き続き注目されます。 

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